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1873年に発明された日本独自の紡績機(ガラ紡績機)でオーガニックコットンを紡績するということ

「風合いとか素材感の評価でうちの糸を使ってもらいたいと思っています。そうした風合いを作り出しているのが日本で発明された機械ですでになくなろうとしている技術です。オーガニックは買った後で認識される程度で良いと思うのです。」

November 4 2016 , Column

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ガラ紡績機という機械をご存知だろうか。紡績機というのはほぐした原材料を糸にするための機械である。綿花、羊毛、麻などの原料から綿糸、毛糸、麻糸にするという工程を指して「紡績」と呼ぶ。例えば、綿糸は綿花から作られている。綿花から採取された原綿はホワホワした綿毛状態である。これを整えて糸にする工程が紡績なのである。羊毛も麻も同じ工程を経る。

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日本の繊維産業は、明治期になって西洋から技術と機械が持ち込まれて現在に至っている。江戸期以前は家内制手工業でそれぞれが手作業で細々と行われていた。原綿を綿糸にする工程は糸車を使って人力でなされていたのである。

江戸末期の開国によって、日本には西洋から綿糸や綿織物が輸入されるようになった。紡績機がもたらされるのは後のことになる。国内は輸入綿糸や輸入綿布であふれるようになったため、臥雲辰致(がうん・たっち、または がうん・ときむね)という人が、独自に紡績機を開発した。これは国内初となる快挙であり、臥雲式紡績機と名付けられて、通称をガラ紡績機と呼ばれるようになった。

なぜ「ガラ紡績機」と呼ばれるようになったかというと、稼働時に「ガラガラガラ」という音が鳴るからだといわれている。

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この日本初のガラ紡績機だが、1890年ごろには西欧から西洋式紡績機が多数輸入され、衰退していった。ガラ紡績機で紡績した綿糸はところどころ「節(ふし)」があって不均一だが、西洋式紡績機で作られた糸は節がなく、均一でストレートであり、こちらのほうが織物に適している。このため、ガラ紡績機は駆逐されて市場から消えていった。

 

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ちなみに臥雲辰致とはなんとも変な名前だが、これはもともと僧侶だったためだ。本名は別にあったが、明治の廃仏毀釈で還俗してからも僧侶時代にちなんだ名前を名乗ったといわれている。

 

 

さて、そんなガラ紡績機だが、現在ごくわずかだが現存し、稼働している。その一つを所有しているのが有限会社CHICA(岐阜県山県市)である。CHICAの松井太樹社長によると「現存するガラ紡績機は全部で5台。そのうち稼働しているのは3台しかありません。その稼働している3台のうちの1台が当社の機械になります」という。しかも製造しているのはオーガニックコットンであり、「オーガニックコットンを紡績しているガラ紡機は日本中でうちの機械だけです」と松井社長。

 

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松井社長の実家は岐阜市にある縫製工場。岐阜県はあまり知られていないが昔から縫製工場の多い県で、県の主要産業の一つがアパレルである。縫製工場が多いことからスーパーマーケットや量販店向けアパレル企業が多数林立することになった。高価格帯ではなく低価格帯のアパレル商品の供給を生業としており、製造小売り化が進む業界の中にあって、今でも卸売りを主体としている企業が多い。松井社長の実家もそれらアパレルの仕事を請け負っていた。

そんな中でオーガニックコットンを扱うようになったのは、実家の縫製工場を切り盛りしていた父親が一時期体調を崩して入院したことがきっかけとなった。病院では肌荒れに悩む患者が多くいて、まあ何か役に立ちたいなという気持ちが起きたそうで、ガラ紡機を導入したのもそういう気持ちの延長線上だったという。ガラ紡機の引き取り手を探していたNPO法人があったので、多少の費用を支払って譲渡してもらったという。なにせガラ紡機は全国でも5台ほどしか残っていない貴重な機械である。

そうしたいきさつで、2年ほど前からオーガニックコットンによるガラ紡糸の製造に着手することになった。

オーガニックコットンとは無農薬・無化学肥料で育てられた綿花で、肌荒れやアレルギーを起こしにくいと一般的に信じられているが、実はそういう科学的データは存在しない。そしてあまりこちらもクローズアップされにくいのだが、トレーサビリティ可能なことが最大の特徴だというのが松井社長の持論だ。どこの国、どこの農園で作られたかというトレーサビリティができるものが松井社長によると「本当のオーガニックコットン」ということになり、単に無農薬・無化学肥料で育てられただけの綿花というだけでは不十分だということになる。

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そういう意味ではオーガニックコットンとはいわゆる「健康商材」ではなく、そういうトレーサビリティ可能な農作物を支援する社会運動だと理解したほうが正しく実像をとらえられるのではないかと思う。

 

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最初は岐阜羽島駅近くの工場跡地を借りて操業していたが、その跡地が売却されたために岐阜県山形市の美山地区へ今年の春に移転してきた。使わなくなった地元住民向けのセンターで、現在は和室にガラ紡機を並べて稼働させており、畳とガラ紡機という何ともシュールな光景が見られる。

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ガラ紡機は筒状になった部分に綿花を詰め、それを上部で巻き取るという構造となっている。一本の筒に入る綿花の量は約20グラム。これを8~12時間かけて紡績して綿糸にする。ところどころに節ができるため、現在衣料品に広く使われているような滑らかな表面感の生地に織ることは難しい。逆に生成りの色を生かし、凹凸感のある素朴な表面感の生地を織るのに適している。

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ガラ紡機を導入したものの、最初は見様見真似の手探り状態で試行錯誤を繰り返した。そういう期間が3~4か月あったという。初めて紡績できたガラ紡糸は月産でわずかに20キログラムしかなかった。そこから作業にも手慣れて今では月産100キロのガラ紡糸の生産が可能になった。糸だけの販売にも応じており、店頭販売価格は30グラムが1000円、50グラム1600円、100グラムを3000円と設定する。卸売り価格はもちろんこれよりも安くなる。

現在流通している洋服の生地にはあまり適さないガラ紡糸なので、松井社長はいろいろと工夫を凝らしており、今でも試行錯誤の繰り返しである。

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例えば、紡績できたばかりの糸は「単糸」というが、単糸同士をより合わせると「双糸」になる。単糸を三本撚ると「三子糸」と呼ぶ。これまではオーガニックコットン同士の双糸を作っていたが、オーガニックコットンとシルク、オーガニックコットンとオーガニックリネンを撚り合わせた双糸や三子糸などの生産も開始して用途を広げる試みを続けている。そして撚糸までの作業を自工場内で完結させている。

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オーガニックコットンは一定のファンがいる素材ではあるが、その多くは「オーガニックだから」とか「エコな感じがするから」だとかいう理由だが、松井社長は「風合いとか素材感の評価でうちの糸を使ってもらいたい。オーガニックは買った後で認識される程度で良い」という。

 

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現在はこのオーガニックコットンを使っての商品開発に取り組んでいるが、使ってみたい人、使ってみたい企業を広く募集している。「自分だけの商品開発では限界がある。いろんな人や企業と取り組むことで思いもしなかった商品が完成するかもしれない。そういうシナジー効果を求めているので気軽に連絡してきてもらいたい」と松井社長。オーガニックコットンを使った新しい切り口の商品が誕生することを期待したい。

Text: Mitsuhiro Minami
Picture: Koichiro Sato

Data

有限会社 CHICA

〒501-1121 岐阜県岐阜市古市場19-1
TEL/FAX: 058-293-5186
fuwaco.info@gmail.com

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