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高機能性を実現することで存在するメイドインジャパン

高野口産地にあって屈指の名門とされるのが妙中パイル織物さんにお話を伺いました。意匠性の高い表面感と耐久性の高さを同時に実現できることが妙中パイルの特色であり、これまで、ファッションブランドでは「コム・デ・ギャルソン」や「マスターマインド」などに断続的に生地を供給されてきました。

September 1 2016 , Column

メイドインジャパンが素晴らしいということをお題目のように唱えることは簡単である。現実はそうした素晴らしい製品も低価格が売りの外国製品に押され、国内の工場は縮小に歯止めがかからない状況である。技術を継承し次世代につなげることは大変意義のあることだが、その技術のもとで経営的に成立させるのが現代のジレンマでもある。

 

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衣料品・繊維製品において、2011年ごろからにわかに「日本製」「メイドインジャパン」が見直されるようになったが、国内の繊維製造・加工業者は一貫して現在も減り続けている。資金繰りに窮しての倒産や後継者不足での廃業が相次いでいるからだ。そして国内の繊維製造・加工業者は今後減ることはあっても増えることはないと考えられている。

現在、市場に流通している衣料品の97%が海外製品で、国産品はわずかに3%に過ぎない。しかも年々国産品比率は下がっている。「日本製」「メイドインジャパン」ブーム湧いているように見えてもこれが実態である。

和歌山県の高野山のふもとに広がり、フェイクファーやモケット、シェニール織りなど毛足の長い生地を生産し続けてきた高野口産地もこの30年間で、御多分に漏れず縮小しており現在も縮小を続けている。

地元の産地組合の加入業者は昭和60年後(1980年代半ば)に384社あり、総売上高は660億円あったが、現在の加入業者数は62社で総売上高は60億円に過ぎない。2016年6月にはまた1社廃業している。非加入業者も存在するが、同様の比率で減少していると考えられる。

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その高野口産地にあって屈指の名門とされるのが妙中パイル織物(以下、妙中パイル)である。長らくファッション衣料やインテリア向け、自動車・車両向けの生地を製造してきたが、近年はその売上高比率が減り、5年ほど前に新ジャンルとして挑戦した液晶パネル向けの研磨布が売上高の半数を占めるようになった。

売上高の減少とともに工場設備を縮小したが、現在でも染色・織布・二次加工の設備は維持しており、紡績を除いた一貫生産ができる数少ない工場である。国内の工場には織布だけ、染色だけ、二次加工だけという工場が世間一般に思われているよりも多く存在し、妙中パイルのように複数の機能を持つ一貫工場は貴重な存在である。

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現在の妙中パイルの売上高は半分がこの液晶パネル向けの研磨布で、2割が化粧をする際に使うパフ向け、アパレル向けとインテリアを合わせて15%、車両向けが15%という構成比となっている。

意匠性の高い表面感と耐久性の高さを同時に実現できることが妙中パイルの特色であり、これまで、ファッションブランドでは「コム・デ・ギャルソン」や「マスターマインド」などに断続的に生地を供給してきた。インテリアや車両向けの生地は、大手インテリア生地メーカーが鉄道会社やインテリアブランド、自動車メーカーから受注した物の製造を委託されるという形で担当してきた。

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今後の方向性について妙中正司常務は「液晶パネル自体は好況だが、研磨布は韓国メーカーや台湾メーカーとの競争が激しく、いつ受注がそちらに取られるかもしれないという危うさがある。また、液晶パネルを製造する技術も日進月歩で研磨布を必要としない製造技術も次々に実用化されているから、10年後も同じ規模での売上高を維持できるかどうかは難しい状況にある。新しい販路を探す必要がある」と危機感を募らせる。

妙中パイルがなぜ産地の名門企業と呼ばれるかというと、かつての売り上げ規模もさることながら、自動車や車両のシート向けの生地が錚々たる先に納入されていたからである。それらの受注元は先ほども書いたように大手商社や大手インテリア生地メーカーだが、難易度が高いために妙中パイルが製造を依頼されるのである。

代表的な事例を並べてみよう。阪急電車のシート、700系新幹線のシート、皇室の馬車のシートなどである。N700系新幹線は立ち上がり時にシート向け生地の後加工を担当し、なんと中国高速鉄道の立ち上がり時の車両シート生地も製造を担当していたという。

これらの車両向け生地でもっとも高価な生地は阪急電車のシート向けだという。関西に住んだことがある人は思い浮かびやすいかもしれないが、あのウグイス色ともモスグリーンとも形容できるグリーンのシートである。

南アフリカで取れるモヘア素材(ヤギの毛)をふんだんに使っており、オペラ座のシート生地並みの上質感と価格で、1メートル当たり6000円相当だという。現代社会において、すべての産業資材はコスト削減の名のもとに低価格化する傾向が強まっているが、阪急電車は高価格を支払ってでも頑なにこの品質を守り続けているという。それは創業者の小林一三の思想に基づいているといわれている。

それにしてもこういう生地の製造を妙中パイルが依頼され続けるのはなぜだろうか。車両向け生地は見た目だけではなく、高品質が求められる。ここでいう高品質とは単に「丁寧な仕事」のことだけを指すのではなく、難燃性とか耐摩耗性といった高機能性をも含むのである。「丁寧な仕事」に加えて、こうした高機能性を実現できるところに妙中パイルの特徴があり、依頼主からの信頼を勝ち得ているといえる。

妙中正司常務は、「毛足のある生地自体は中国でも他のアジアでも簡単に織れる。しかし当社には後加工に独自のノウハウがあり、難燃性と耐摩耗性を実現できている」という。また高野口産地全体でも中国産のフェイクファーよりも毛が抜けにくいという特色があり、それらは「毛抜け防止の技術が高いこととバックコーティング(裏面コーティング)に独自のノウハウがあること」(妙中常務)で実現されている。

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企業の倒産・廃業は市場のニーズによって引き起こされ、ニーズに対応できない企業は淘汰されて当然だと考えている。高野口産地の縮小もニーズに対応できなかったためであり、そこに対して過剰な同情論や擁護論を喚起しようともこれっぽっちも思わない。しかし、独自のノウハウに基づいた高機能生地を製造できる産地は何とか存続してもらいたいと願わずにはいられない。現存する高野口産地の企業すべてが今後も存続することは不可能だということはわかっているが、その中の1割でも2割でもが残ってもらいたいと、そういうセンチメンタルリズムやノスタルジーは嫌いだが、ついつい思ってしまう。約2年ぶりに訪れた高野口山地はそんな風情だった。

 

 

 

 

Text: Mitsuhiro Minami
Picture: Koichiro Sato
Translation: Yukie Haneda

Data

Data

妙中パイル織物株式会社

和歌山県橋本市高野口町向島193
0736-42-3170
URL:www.taenaka.com

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