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スーパーブランドに生地を供給するフェイクファー特化型メーカー

シャネル、プラダ、ルイ・ヴィトンといったヨーロッパの錚々たるラグジュアリーブランドに生地を供給し続けている岡田織物さんです。

August 22 2016 , Column

弘法大師空海が開いた高野山。その高野山のふもとを「高野口(こうやぐち)」と呼ぶ。和歌山県の高野口はフェイクファーやモケット、シェニールなど毛足のある生地の産地である。国内には多くの生地産地があるが、知名度が高い産地もあれば、そうでない産地もある。

高野口産地の知名度は実際のところ微妙といえる。どちらかというと玄人と呼ばれる人には知られているが、ミーハーな人は知らないと思われる。

高野口山地の歴史は江戸時代末期にさかのぼることができる。当時は綿織物が主体だった。明治に入ってヨーロッパからシェニール織りの技術がもたらされる。シェニール織りは一度織った生地をテープ状に裂いて、それを再度織るという技法の生地だ。それをきっかけに毛足のある生地作りが高野口産地で主流になる。

通常の生地産地は織りか編みかどちらかしかできないが、高野口山地は織りと編みの両方の工場がある。そのどちらもが毛足がある。ちょっと極端なたとえ方をすると、織られたフェイクファーと編みのフェイクファーがあるということになる。

そんな高野口産地の生地メーカーを2回にわたって紹介したい。

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高野口産地への最寄り駅はJRの高野口駅か南海電鉄の橋本駅。橋本駅はJR橋本駅ともつながっている。かつてはJR(旧国鉄)の高野口駅が高野山への入り口だった。そう語るのは岡田織物の岡田次弘社長。

高野山は山の上にパラっと寺院があるのではなく、たくさんの塔頭が並んでおり、その面積は広大である。寺の周りには町もある。一種の宗教都市ともいえる。

かつては高野口で一泊して翌日に登ったそうで、JR高野口駅周辺は当時、民宿がひしめき合っていたそうだが、今では駅前の「葛城楼」の建物だけが当時の面影を残しているに過ぎない。

 

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高野口産地にあって岡田織物は異彩を放っている。シャネル、プラダ、ルイ・ヴィトンといったヨーロッパの錚々たるラグジュアリーブランドに生地を供給し続けているからだ。岡田社長にそのいきさつを尋ねると「2002年ごろに産地の同業者に誘われてニューヨークの展示会に出展したところ、好反応で生地を輸出することになり、それが今まで続いている」との答えが返ってきた。

岡田織物が供給する生地はフェイクファー一本槍である。いわゆる特化型のメーカーだ。

以前は、和装のショール向けとしてフェイクファーを生産していたが、和装市場の縮小もあって現在は洋装用向けに変わっている。

岡田織物に限らず、高野口産のフェイクファーは中国製と比べると価格は驚くほど高い。1メートル2000円の生地なんてざらにあり、もっと高価な生地も珍しくない。どこが違うのかというと手触りの滑らかさ、毛の抜けにくさ、そ

して生地全体の柔らかさである。

動物の毛は、短い毛と長い毛が交互に生えるという構造で立体的になっているが、中国製フェイクファーの多くは毛の長さが均一である。しかし、岡田織物に限らず高野口産地のフェイクファーは長短交互に生えている動物の毛並みを忠実に再現しているため、立体感があり手触りがなめらかである。

また、生地の裏側は毛が抜けにくいように薬剤で固めるが、中国製は安価な薬剤を使用しているためかなり硬く固まる。高野口では工夫を重ねた結果、あまり硬くならずに毛が抜けにいという特殊な薬剤を使用するようになった。

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岡田織物が欧米向けに生地を輸出するようになって今年で14年。高野口産地で欧米向けに生地輸出を続けているのは岡田織物だけになってしまった。その理由について岡田社長は「今、世間で思われているほどには海外向けの生地輸出というのは多くの量が出ません。大手の生地メーカーだと手間暇がかかる割にはメリットが多くないと感じてしまう程度の売上高です。当社は大手ではありませんので、少しでも売れればラッキーという形で続けられているだけです」と語る。

クールジャパンだとかメイドインジャパンブームだとか言われて、官民一体となって海外への生地輸出を促進しようという動きがあるが、これが一つの現実である。

高野口山地はピーク時の昭和60年ごろには組合に加入している企業数だけで384社あり、その売上高総数は660億円にのぼった。組合に加入していない企業も相当数あったから、産地全体の規模はこの数字よりもっと大きくなることは間違いない。

現在の組合加入企業数は62社で売上高総数は60億円。30年で企業数は6分の1、売上高は10分の1にまで低下しており、今年6月にも加盟企業が1社廃業している。組合に加入していない企業も同様の比率で減少していると考えられるから、いかにこの30年間で産地全体が縮小したかわかるだろう。そしてこの産地の縮小は高野口産地だけではなく、日本全国の産地で同様に起きているのである。

現在、アパレルやブランドはこぞって日本製を打ち出しているが、日本の生地産地は縮小し続けているし、今後も確実に縮小する。

当然、岡田織物の売上高も縮小している。岡田社長は「2000年時点と比べると現在の売上高は3分の1まで縮小している」と説明する。主要販路はレディースアパレルで、一部にインテリア雑貨メーカー、それと自社のウェブショップである。

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「売上高が3分の1になると厳しいでしょう?」と尋ねると、「いや、それが意外に安定しているんです」と明るい表情。その理由を尋ねてみると「フェイクファーという生地はデニムやブロードなどの定番生地と違って、定番となりにくい生地です。ですから、以前はブーム時とそうでないときの落差が激しかった。例えば今年は5万メートル売れたけど、次の年はブームが去ったからゼロに近い、そんな状況でした。それほどの落差があると経営は安定しません」とのこと。そして「今は毎年、決まった量が安定して売れます。ですから変な言い方ですが以前に比べると『減りながら安定』しています」とも付け加えた。かつて19軒しかなかった取引先が現在は200軒にまで増えている。

岡田社長は無理に海外輸出を増やそうとも、国内売上高を急増させようともしない。あくまでも自然体でモノづくりに取り組む。「ビジネス」として見るといささか物足りなさも感じられるが、いかにも職人的で日本の産地企業らしいともいえる。そんなふうに感じた。

Text: Mitsuhiro Minami
Picture: Koichiro Sato

Data

Data

株式会社岡田織物

和歌山県橋本市高野口町大野757
0736-42-2864  
衣料用パイル織物・パイルメリヤス生地製造販売
URL:okadatx.shop-pro.jp

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