Web magazine exploring value in a unique and personalized creation of real life.
Web magazine exploring value in a unique
and personalized creation of real life.

小さな工場が逆転の発想で「染め直し」の需要を開拓した。「福井プレス」

工場面積が狭いので大ロットには対応できないという弱点を、小ロット対応できることに転化させる逆転の発想。

December 5 2016 , Column

fukui002-ikoma

およそ1年ぶりに東大阪の新石切に出向いた。東大阪という地域は中小工場が集積した土地として関西では知られている。その東大阪に、染色、洗い加工、染め直しなどを手掛ける福井プレスのオフィスと工場がある。

通常、染工場とか洗い加工場というのは、2代前とか3代前とかからずっと家業として続けている場合が多いが、この福井プレスの福井伸社長は3代目ながら、染色・洗い加工は自身が創業したという少し変わった経歴を持っている。

祖父が起こした家業はクリーニング屋で、クリーニングは福井社長の兄が継いでおり、福井社長は染色・洗い加工に専念している。

新石切の幹線道路を一本入ったところに、トタンのガレージのような小さな建物が並んでいる一画があり、その中の一つに福井プレスがある。

fukui001-street

 

通常の染色工場を思い浮かべていると、その小ささにちょっと驚く。通常の染色工場はかなり大掛かりな設備を導入しており、大きなロットに対応できるようになっているが、福井プレスの工場は見たところ40~50坪くらいでそこに中小型の機械が所せましと並べられている。

福井社長が福井プレスを創業したのは15年ほど前のこと。ちょうど2000年ごろのことだったという。それまで家業のクリーニング屋を継がずに染料メーカーで営業として活躍していた。染料メーカーに在籍したことから実態をよく知っている染色工場を起こすことを決めた。2000年ごろの業界情勢は、繊維の製造・加工場が中国へ大規模シフトしていた時期で、倒産・廃業が相次いでいた。倒産・廃業した染色加工場は使用していた機械をタダでも良いから引き取って欲しがっていたので、かなり少ない元手で染色機や洗い加工機をそろえることができた。

ちなみに現在も国内の繊維製造加工業は倒産・廃業が続いているが、2000年前後で多くの業者が淘汰されきったため、当時ほどのペースではない。また使用していた機械類についてはアジア地区の工場が転売を望むようになったため、タダでも良いから引き取って欲しいというようなこともなくなった。それなりの値段でアジア地区の工場へ引き取られるのが常態となっている。

fukui004-factory

fukui006-machine

余談ではあるが、かつて知人を通じて中国の工場が、旧式の織機を買いたいと依頼してきたことがある。倒産・廃業した工場を紹介してほしいとのことだった。それなりの値段を支払うという条件だったが、あいにくと希望者がおらずにこの話は流れてしまった。しかし、これに類した依頼がアジア地区の工場から各方面に来ているのが現状である。国内の機械設備はある程度の値段で売れるのである。

なぜ、アジア地区の工場が日本の機械設備を欲しがるのかというと、アジア地区の工場は最新鋭の機械設備をそろえているが、繊維製品の製造加工においては旧型の機械でしか再現できない部分が少なからずある。そしてそういう旧型の機械設備の多くは日本の工場に残されている。

fukui007-fukui

2000年当時の不況感を知っている人間からすると、創業はかなり苦労したのではないかと想像してしまうが、福井社長は「意外に注文はすんなりと取れました」と当時を振り返る。様々な工場が倒産・廃業に追い込まれた状況で、どうして受注がすんなりと取れたのか?

その答えはウェブサイトをいち早く開設したことにあった。2016年の現在では、中小零細企業でも公式ウェブサイトを持つことは珍しくなくなっている。逆にウェブサイトを持たない企業の方が怪しげに映る。しかし、現在でも繊維の製造加工業者はあまりウェブサイトを開設していない。

しかし、多くの人は調べ物をする際に、パソコンやスマホ、タブレットを使用してウェブを検索する。そうするとウェブサイトを開設していない企業はその検索に引っかからない。検索に引っかからない企業へ問い合わせする人はいない。日本製ブームの回帰といわれながら、国内の製造加工業への問い合わせが予想よりも少ないのは、彼らがウェブサイトを開設していないことが原因の一つでもある。

2016年ですら、その有様だから2000年当時はウェブサイトを開設していた製造加工業者は今よりももっと少なかった。そうすると、早々にウェブサイトを開設していた創業したばかりの福井プレスに驚くほど注文が集まることになった。

ウェブによる情報発信の重要性を福井プレスは改めて教えてくれる。

fukui003-machine

fukui005-factory

それにしてもいくら染料メーカーの営業マンだったとはいえ、いきなり染色加工場を開業するのはどのような勝算があったのだろうかといまだに不思議でならない。とくに90年代後半からは工場の海外移転が相次ぎ、国内工場は苦境に立たされている。そんな状況でよくぞ決断できたものだと感嘆するが、福井社長は「実はクリーニングで使用する機械と、染色加工で使用する機械はまったく同じなんです。多少のチューンナップはしましたが、基本的には同じ機械で回転数を変えると両方に対応できるんです」と笑いながら答える。家業として長らくクリーニングの現場を見てきたからこその発想といえる。

fukui008-fukui

福井社長のこの逆転の発想はほかにも随所に見られ、例えば、工場面積が狭いので大ロットには対応できないという弱点を、小ロット対応できることに転化させている。

1度に何千枚・何万枚というオーダーには対応できないという欠点も、数十枚とか100枚くらいの枚数には対応できるという利点に逆転させている。その結果、多くの中小零細ブランドからの受注が舞い込むことになっている。

また、数枚しか作られないサンプルの修正・色補正の注文にも対応でき、小規模・零細ブランドからも重宝されている。

2010年ごろからは法人向けではなく、個人向けの「染め直し屋」の事業も開始した。基本料金5000円と1枚当たりの重さで料金が決まる。シャツなら200グラムで400円、ワンピースなら300グラムで600円といった具合だ。

こちらもリユースやリサイクルの流れも後押しして、リピーターが定着して一方の収益の柱となっている。持ち込まれるのは高額なブランド品が多く「長年使ってきたら色落ちがしたとか、皮脂汚れが目立ってきたから」という注文が多く、顧客層は40代以上が多いという。一方、高額ブランドを所有しない若い層の利用者はほとんどおらず、福井社長は「年配層に限られているため利用客数はこれ以上伸びない。今後は若年層の取り込みが今後の課題」と気を引き締める。

独自の姿勢で、新規参入し、需要を開拓してきた小さな染色加工場だが、このまま存在感を発揮し続けてもらいたいと思わずにはいられない。

Text: Mitsuhiro Minami
Picture: Koichiro Sato

Data

Data

福井プレス

〒579-8013
大阪府東大阪市西石切町6-3-42
Tel/Fax 072-986-9295
営業時間 8:00~17:00
定休日 土曜・日曜・祝日
Mail info@fukuipress.com

URL:fukuipress.com

Data

染め直し屋

〒579-8013
大阪府東大阪市西石切町6-3-42
Tel/Fax 072-986-9295
営業時間 8:00~17:00
定休日 土曜・日曜・祝日
Mail info@fukuipress.com

URL:somenaosiya.jp

Tags

Recommend