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製造加工業者の自立化への方策のヒントに。コーマ株式会社の取り組み

オリジナルのスポーツ靴下ブランド「フットマックス」をニッチな市場を深堀することで開発することに成功した。靴下製造工場「コーマ株式会社」がどのように自社ブランドを開発し、軌道に乗せるまでの取り組みを紹介します。

March 24 2017 , Column

社名版

最近、奈良の靴下が脚光を浴びつつあるが、これはなぜかというと昔から奈良は靴下と肌着の製造産地だったからだ。そんな中、大阪府松原市にも長い歴史を持つ靴下製造工場がある。今回はその大阪府松原市の靴下製造工場が自社ブランドを開発し、軌道に乗せるまでの取り組みを紹介したい。

 

大阪府松原市にオフィスと工場を構える靴下製造会社のコーマ。創業は古く、95年前の大正11年(1922年)のこととなる。そこから2009年まで約90年間、コーマは各ブランドの靴下の下請け製造一筋でやってきた。

そもそも社名の「コーマ」とはどこから来たのだろうか?最初、ぼくは創業者の名前から採ったのだと思っていた。吉村駒三という人が創業者だったから「駒」から「コーマ」なのかと類推したのである。

しかし、尋ねてみると、創業当時から綿の靴下を専門に製造しており、非常に高級な綿糸を使っていたのだそうで、高級綿細番手糸を意味する「コーマ糸」からその当時から「コーマさん」と呼ばれていたという。その「コーマ」を1938年に正式に社名とした。

工場の全景の1部

 

松原市は今でこそ、あまり繊維製品の製造加工業者が多くはないが、かつては河内木綿の産地として知られていた。その地で創業したことからコーマは綿靴下を手掛けることとなった。

旧型の編み機

 

長い会社の歴史の中で何度も危機はあったが、1960年代に「ナイロン靴下ブーム」があり、綿靴下しか製造していないコーマは大変な経営危機に見舞われたという。ところで、この「ナイロン靴下ブーム」というのはどのようなものだったのかお分かりだろうか?年配の方ならご存知だと思うが、60代から下の世代では今一つピンと来ないのではないか。

例えば、パンストの足先だけのような商品だったのかと想像したがそれはどうも違うらしい。この「ナイロン靴下ブーム」は主に男性の間で起きていたとのことで、スーツに合わせる黒いスケスケの靴下のことである。

男性がスーツに合わせる靴下は現在では、綿素材が主体になったダークカラーのものが定番となっている。綿素材が主体なのでそれなりに厚みがある。少なくとも極薄生地の商品はほとんど見かけない。

だが、これは昔からそうだったわけではない。40代以上の方なら子供のころの記憶があるかもしれないが、30年くらい前に父親が仕事に行くときにスーツに合わせていた靴下はダークカラーのスケスケ靴下ではなかっただろうか?あれが「ナイロン靴下」であり、1960年代にあれが爆発的に売れた。

染色された紡績糸を巻き取る機械

島精機製作所から購入した横編み機

 

今日の目で冷静に見ると、オッサンの足指がスケスケになっている様子はあまりカッコイイものとは感じられない。おまけにナイロンという合成繊維が主体の生地組成なので吸水性が悪く、汗で蒸れそうな感じがする。見た目にも機能的にも良いとは思えない物がどうして爆発的に売れたのだろうか。50年前の消費者心理はどうにも理解できない。

が、まあ、事実として売れたのだから仕方がない。

ナイロン靴下ブームが一段落したときに最初の転機が訪れる。綿素材とストレッチ素材であるスパンデックスの交編技術に注目が集まりだしたのである。コーマは表側と裏側に出てくる糸の種類を変えて編むことができる技術を持っていた。その技術を応用して表側に綿、裏側にスパンデックスを出すことで現在普及している綿主体のストレッチ混素材靴下の原型を作り出すことに成功したという。

 

現在、コーマの年間売上高は約10億円、従業員数は約90人。主要取引先はスポーツウェアアパレル・スポーツブランドと一部の高級子供服ブランドで、OEM生産に徹している。これまで40年間という長い間、スポーツソックスを専門に手掛けていたことから、2009年に一念発起してオリジナルのスポーツ靴下ブランド「フットマックス」の開発に着手。足の形状に合わせた立体的な「3Dソックス」の編み構造を開発した。

フットマックスの商品

フットマックスの商品群

「フットマックス」の企画から販促までを広く手掛ける野村賢治・チーフデザイナーは「スポーツソックスは長い間、黒無地とか白無地とかそういう地味なシンプルベーシックな商品しか存在していませんでした。ぼくはもっと色柄で遊んだ商品というのを作りたくていろいろなブランドに提案したのですが、当時はどこにも相手にされなくて」と振り返る。

そんな時、SPA型靴下店「靴下屋」で知られるタビオがカラフルなランニング向けソックスの発売を開始した。「正直、一歩先にやられた、悔しいと思いましたね」と野村さん。そこから「どのブランドも取り組んでくれないならオリジナルで作ろう」と腹が固まったという。

しかし、業界の有力企業であるタビオが先行しているため、単なるスポーツ向けのソックスを発売したところで勝ち目は薄い。また旧来からの取引先とのバッティングも避けたい。そういう思いから野球やサッカーなどのメジャースポーツ向けの商品は最初から手掛けるつもりがなかった。

ニッチな市場を深堀することを目的として、ランニング用をさらに細分化して4タイプを開発した。ロードレース、ウルトラマラソン、五本指、トレイルランの4つの商品である。ロードレースは薄手生地で42・195キロ未満に向けたランニングソックス、ウルトラマラソンは42・195キロ以上の超長距離向けの肉厚ランニングソックス、5本指は長距離を走るときに足指同士の摩擦による負傷を軽減する。トレイルランは山中を走るトレイルラン向けの靴下である。

大手のように宣伝広告・販促費はかけられないので、多くの人や店にサンプルを配布して試してもらうという地味な活動から始めたところジワジワと口コミで広がりを見せた。そこで新商品として2013年に自転車競技用のスポーツソックスを発売した。自転車競技用の靴下もそれまで専用商品がほとんどなく、あったとしても欧米からの高額なインポート物しかなく、そのデザインは地味でシンプルだったという。

 

自転車競技用の靴の上から履くフットカバー

 

通常の衣料品業界では、無名ブランドの商品を手に取ってもらうことは難しい。だから有名ブランドとのコラボやライセンス商品ばかりが店頭に並ぶのだが、自転車競技の愛好家はそうではなかった。より新規性の高いブランドを好む傾向が強かったのである。野村さんは「フットマックスの知名度が低いことが逆に幸いしました。世の中何が幸いするかわかりませんね」と笑う。

自転車競技向けソックスもある程度の売り上げ規模に達しつつあるので、新商品としてボルタリング向け靴下を開発した。これは薄くてフィット感を重視した形状となっている。これまでボルタリングは専用ソックスが存在せず、裸足に直接靴を履いてプレイしていたが、足裏から出る汗で靴が早く傷む、においがひどいなどの諸問題に実は悩まされていた。「裸足でプレイする」という固定概念が強い競技だったが、一度靴下を履くとその効能が如実にわかるため、現在、プレイヤーの間では急速にフットマックスのボルタリング向け靴下が広まりつつある。

 

現在「フットマックス」は自社オンライン通販と、ゼビオやミツハシなどの大型スポーツ店や各スポーツ専門店への卸売りによって小売りベースで年間1億円の売上高にまで成長した。卸売り先は全国に400店ある。野村さんによると「スポーツ専門ソックスの市場規模はそれほど大きくなく、1社あたりの売上高は3億円くらいが極大値になります。そこまで成長できたとしたらその次はどうするべきなのかを考えている最中です」という。

「思い切ってオリジナルブランドを開始して良かった。商品を見たと言って新しい取り組み先が向こうからいろいろと来てくれるようになりました。先日は自動車メーカー、自転車メーカーからも専用ソックスを作って欲しいという依頼があり、ありがたい限りです」とのこと。

 

現在、自立化への方策が見えずに悩む製造加工業者は多いが、コーマの「フットマックス」は参考になる一例ではないかと思う。

Text: Mitsuhiro Minami
Picture: Mitsuhiro Minami

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コーマ株式会社

〒580-0043
大阪府松原市阿保3-6-27
TEL.072-332-1563(代表) 
FAX.072-332-1567
URL:www.cooma.co.jp

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FOOTMAX

肉体との一体化を追求し、進化するソックス。
スポーツを愛するすべての美しきアスリートのために、より以上のパフォーマンスと新たな可能性を創造する。

URL:www.footmax.jp

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