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アパレル業界は「経営」と「クリエイション」の両方がわかる人材が、業界を変革するのではないでしょうか

有限会社シノワプランニングスタジオ 代表取締役 平井達也さん、 平井慶子さん

レディース向けデザイナーズブランド「si-hirai(スー・ヒライ)」と「si-si-si(スー・スー・スー)」を展開する有限会社シノワプランニングスタジオ。衣料品業界が大規模な低価格SPAと大手セレクトショップに集約されていく中で、独自路線のブランドは業界の変化をどうとらえているのでしょうか?

December 19 2016 , Interview

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97年に繊維業界の業界紙に入社した当時、業界は若手デザイナーのプチブームがあった。インディーズ(独立系)デザイナーと言ったほうが分かりやすいだろうか。要はアパレル企業に属さず、自分のオリジナルブランドを独立して立ち上げたデザイナーのことである。その当時、何人もの若手デザイナーと知り合ったが、大半以上は没交渉となってしまった。プチブームが弾けてしまい、廃業した人、アパレルに再就職した人、ファッション専門学校の講師になった人、とさまざまいて、ブランドビジネスを現在まで続けている人の方が少ない。

そんな数少ない長年の戦友ともいえるデザイナーに今回は焦点を当ててみたい。有限会社シノワプランニングスタジオを設立し、レディース向けデザイナーズブランド「si-hirai(スー・ヒライ)」と「si-si-si(スー・スー・スー)」を展開する平井達也さんと慶子さんご夫妻である。

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大阪のファッション専門学校を卒業して就職したのは89年のことで、ぼくが大学に入学した年と同じだ。東京の有名デザイナーズブランドの会社に企画職として入社した。

この当時の業界がどんな状況だったかは大学生だったぼくには皆目わからない。ただ、当時の学生としての記憶を掘り起こすなら、DC(デザイナーズキャラクター)ブランドブームのピークは過ぎたとはいえ、まだ十分にその余韻があったように感じる。おそらく一般消費者の印象はそんなものだったのではないだろうか。

実際にその現場に入った平井さんたちによると「ぼくらは上京したばかりで期待に胸を膨らませていたのですが、東京の中心地にいた会社の先輩方からは『DCのピークは終わった』と言われて驚いたことを覚えています」という。やはり内部にいるのと、外から眺めているのとでは状況は違ったということである。

 

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平井達也さんは「それからしばらくして、下北沢にスピック&スパンの第1号店がオープンして、それを見に行って衝撃を受けました」と当時を振り返る。

DCブームとバブル期のボディコンファッション・ソフトスーツは、良くも悪くもアバンギャルドで装飾過多なデザインがもてはやされ、アパレル業界関係者は3食カップラーメンをすすっていても、私生活を見せない「恰好を付けた」状態で憧れられていた。それは虚飾に過ぎなかったのだが。

しかし、新しく登場した「スピック&スパン」をはじめとするライフスタイル型のセレクトショップはそれらとは180度異なる立ち位置だった。シンプル、ベーシックな洋服で、家具や雑貨を含めた生活シーンまでをトータルで表現していたからだ。DCブランドしか知らなかった若者にとっては、それはカルチャーショックだったといえる。

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新型セレクトショップの洗礼を浴びてしばらくしてから平井さんたちは、デザイナーズブランドを退職してアパレル向けの企画会社に移籍した。さらに数年してから返還前の香港の企画会社に移った。時代は90年代半ばになっていた。このころ、日本では香港映画がブームとなっており、香港が注目されていたことを覚えている。この当時、香港で仕事をした日本人デザイナーはそれほど多くなかったから貴重な経験をしたというべきだろう。

98年に帰国と同時にレディースの「スー」ブランドを立ち上げ、最初の展示会で平井さんたちと知り合った。当初の商品は香港帰りということもあったのかヨーロピアンテイストをベースとしながらも、ディテールや柄に少しシノワズリ(中華趣味)が混じった印象があった。ブランド名の「スー」は中国語で糸を意味する「絲」という漢字の発音である。「青椒肉絲(チンジャオロース)」でおなじみの「絲」だ。

そこから徐々にシノワズリの印象は薄くなり、ナチュラルテイストなヨーロピアンカジュアルへと移行し、派手さはないが固定客層に支えられている。販路は専門店で、ほぼ卸売りのみでここまで続いたデザイナーズブランドはなかなか珍しい。98年のユニクロのフリースブーム以来、衣料品の店頭販売価格は下がる傾向が続いており、慶子さんが少し安い価格帯の「スー・スー・スー」を開始した。もちろんユニクロ並みの低価格でないこと言うまでもない。

 

 

衣料品業界が大規模な低価格SPAと大手セレクトショップに集約されていく中で、ほとんどのデザイナーズブランドは卸売りのみでなく直営店やウェブでの直販を併用する形を採ることが増えた。小規模専門店の倒産・廃業が相次ぎ、卸売りのみでは売上高の減少が食い止められなくなったからだ。

しかし、平井さんはいまだに直営ウェブ通販を開設せずにブランド活動を続けている。アトリエに直営店を併設したのも4年前に過ぎず、その直営店も大規模な売上高を誇っているわけではなく、今でも卸売りを主体に事業が継続できており、これは業界でもなかなか珍しい例だといえる。近年、再び若手デザイナーズブランドが増えつつあるが、著名なわりにはビジネス規模に到達していない手作り状態のブランドも数多くある。しかしシノワプランニングスタジオは卸売りのみでピーク時には売上高5億円に達したこともあり、手作り状態のブランドとは一線を画している。

 

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それにしても平井さんたちの商品がほぼ卸売りのみにもかかわらず、これほどの長期間にわたって支持されたのか、様々な要因があるだろう。

個人的な見方だと、商品(ぼくは既製服ブランドの洋服を作品と呼ぶのを好まない)のテイストが多くの人が親しみやすいヨーロピアントラッドテイストだからではないかと思う。かといってデイリーカジュアルでもない。モードすぎることもなくアバンギャルドとは程遠い。

また販売価格設定の工夫もあると感じる。吹き上がったインディーズ系デザイナーの中には「高ければ高いほどありがたがられる」という勘違いをしている者も珍しくない。例えば着る期間が極端に短いスプリングコートを6万円~7万円で発売するブランドは数多いが、平井さんはこれを39000円くらいで発売する。なぜなら「7万円のスプリングコートなんて欧米のスーパーブランド並みの価格。スーパーブランドとぼくらではステイタス性が異なるので競争しても負ける」という考え方があるからだ。これは非常に冷静な分析ではないかと思う。冬用のコートでも10万円には達しないように素材選び、縫製仕様を工夫する。

既製服は例外なく工業製品であるため、生地、染色、縫製とあらゆる工程でミニマムロットが工場ごとに設定されている。ミニマムロットを下回れば、アップチャージで工賃がアップする。反対に上回れば1枚当たりの工賃は安くなっていく。ビジネスが成り立たないデザイナーに限って自らの商品を「作品」と呼び、「生産ロットなんて関係ねえ」とばかりに極小ロットをオーダーする。その結果、製品クオリティの割には販売価格が割高になってしまう。だからさらに売れなくなるという悪循環を繰り返している。

平井さんは極力ミニマムロットに到達するように展示会で受注をまとめ、小ロット商品は工場の閑散期に注文するように工夫をして、原価を抑えている。その結果、激安ではないが製品クオリティに比して割安感のある販売価格に設定できる。こういう地道な取り組みが顧客に評価されているといえる。

 

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「89年にライフスタイル型セレクトショップが出てきて時代の変わり目を目の当たりにしました。今また、大手の寡占化が進んでいるアパレル業界は変わることを余儀なくされています。これまでアパレルには経営かクリエイションかどちらかしかできない人が多かったが、これからは両方がわかる人材が出てきて業界を変革するのではないかと期待しています。そしてそういう人材は、今年50歳になるぼくらよりも若い世代から登場すると思っています。そういう優秀な若い世代の出現まで斜陽産業になっているファッション業界を繋ぐのがぼくらの世代の役割だと思っています」という平井さんの言葉に、ほぼ同年代としては納得してしまった。知り合ってから18年が経過してお互い手持ち時間が残り少なくなっていることを改めて感じた。

Text: Mitsuhiro Minami
Picture: Koichiro Sato

Data

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SI-HIRAI

550-0003
大阪市西区京町堀1-8-31 安田ビル1F
URL:www.si-hirai.com

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