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パリの “サケ・サムライ”

シルバン・ユエ Silvain Huet (日本酒啓蒙家)

2012年、日本酒や日本の食文化を広く世界に発信していく『サケ・サムライ』にフランス人として初めて叙されたシルバン・ユエ(Sylvain Huet)氏にインタビューをしてきました。

July 19 2016 , Interview

全国の若手蔵元で組織する日本酒造青年協議会は、日本酒の誇りを取り戻し、日本酒文化を日本国内のみならず、広く世界に伝えていくために、日本酒を愛し育てるという志を同じくするものの集いとして、平成17年に「酒サムライ」を結成しました。そして「叙任者の方々と力を合わせ、日本酒や日本の食文化が世界に誇れる文化であることを、広く世界に発信いく」というものです。シルバン・ユエ(Sylvain Huet)氏は2012年にフランス人として初めて『サケ・サムライ』叙任者となりました。

 

001 silvain

 

ヨーロッパでの日本酒の普及

シルバン: ヨーロッパにはいろいろな文化や歴史があります。地形的にはフランスは真ん中にはあるのでここを中心に活動をしています。日本酒が人気と伝えられているかもしれませんが、でも実はヨーロッパ人は日本酒のことはあまりわかっていません。

―そうなんですか。ずいぶん日本酒の人気が出てきたと聞いていましたが。

シルバン: まだまだ知られていません。北欧の人やロンドンの人は7年前にはじめて日本酒のマーケットを知りました。2013年初めて『サロン・デュ・サケ(le Salon du Saké』2015』を行いました。2回目から来場者は増えてきました。ヨーロッパで一番大きい日本酒の展示会です。ヨーロッパで日本酒はスピリッツのイメージがあります。もちろんそれは違うんですが「ハイ・アルコール」のお酒だと思われています。

―そうですね。見た目だとほぼ透明だったりしますからね。ウォッカとかジンの仲間ですよね(笑)。

シルバン: そうです(笑)。まだ残念な状況です。パリでは利き酒のイベントをよくやります。それは一般の方とプロの受講生を集めて『アカデミー・デュ・サケ(l’Académie du Saké)』という名前で行っています。これは、ワークショップであり文化の交流だと思っています。歴史についてやキモノや漆器についても勉強をしています。これは酒の文化の理解にとって、とても大事なことだと思っています。

―すごいですね。利き酒をしながら、その文化的な背景についても勉強するんですね。

シルバン: フランス人は勉強しないでもワインのことは大抵わかっています。そして醸造酒である日本酒とワインはちょっと同じところがあります。そういうところから説明をしています。

―なるほど。日本でのワイン教室のスタンスとよく似ているかもしれないですね。絶対数が全然違いますが(笑)。

シルバン: フランスにおける日本酒のセレクションはまだ少ないのです。もっと広がればいいと思ってます。いま、「アカデミー・デュ・サケ」はヨーロッパ全域にまで広げて活動をしていますが、その中でワインを作っている国は嗜好がよく似ています。みんな、ワインみたいなお酒が好きなのです。だから、私はあまり(アルコールが)強くなくて香りがよいものを勧めるようにしています。

―日本酒の香りですか。飲む前に匂うことはあってもあまり気にしたことがなかったです。ワインのようには香りを楽しむようなことはないですね。

シルバン: 日本人は香りについても優しいものが好きなようです。でも、実は日本酒の鼻に抜ける感覚は独特だと思いますよ。ああいった口の中から鼻へ香りが抜けるのが特長です。

―なるほど。ほかにどのように魅力を教えてらっしゃるんでしょうか?ワインと日本酒の違いはなんでしょう?

シルバン: ワインと日本酒の大きな違いは温度です。ワインでは同じ温度をキープします。もちろんフランスの店ではワインの温度をお客さんが変えることができません。日本料理では料理に合わせてお酒の温度を変えるのが面白いです。また飲むだけの時でも日本酒では常温でも熱燗でも楽しむことができますね。これが面白い。フランスにも燗酒の飲める店ができましたがパリにはありません。ちょっと残念です。

今度のサロンでは 温度を切り口にしたエキシビジョンになります。

―そうですね。改めて考えてみるとお酒の温度を変えて提供するのって珍しいかもしれません。そういう発見をシルバンさんの目を通して発見させられるのは面白いです。

シルバン: 私は20年前はじめて日本に行きました。いろいろなことすべてに本当にびっくりしました。今では毎年2回か3回日本に行って、勉強のために日本酒を3本は持って帰ってきています。まぁ楽しみでもあるのですが(笑)。そして私はインポーターではなく、日本酒の先生なのです。なので、いろいろなお酒に損得なしにつきあうことができます(笑)。マーケットが拡大するのにはエデュケーションが大切だと考えています。これからまだセミナーをやっていない国でも日本酒のセミナーを行い日本酒について正しい楽しみ方や飲み方を教えていきたいと思っています。

Salon du sake

 

日本文化との出会い

―シルバンさんはどういった形でそんなにお酒のことが好きになられたんでしょうか?

シルバン: 私の最初の仕事はコンテンポラリーダンサーだったんですね。

―えっ?!本当ですか?

シルバン: はい。10年くらいやってたんですよ。

―いまからは考えられないですね?他国の伝統文化を教えるという今の仕事からは想像がつきません。びっくりです。それから日本酒にどう繋がるんですか?

シルバン: そうですね(笑)。ダンスのトレーニングの中で合気道の師匠と出会い、合気道と一緒に、日本の伝統や美術などを勉強しました。それから武道の勉強のために何度も日本に行って、そのなかで先生から文化や食事など教えてもらったんです。本当に驚きと感動の連続でした。それから2009年までパリで合気道の先生をしていました。

―えぇ――!! ダンスから合気道ですか?意外です!

シルバン: そのあと文化奨学金を受けることができ、京都の裏千家学園茶道専門学校で一年間茶道の勉強をしました。京都でしたから日本の美しい四季を経験することができました。

―すごいですね!合気道から茶道ですか、ちょっと驚きです。美しい四季とおっしゃられましたが、日本の季節ではいつが一番好きですか?

シルバン: 秋です。秋にはご飯がおいしくなる(笑)。ほんとうにご飯は美味しいですね。

日本に行ってから食べ物の好みも変わりました。今ではお魚は大好きです。特に刺身が大好きなんですが、実は子供のころから魚は大嫌いだったんです。日本に1か月旅行した時、魚が好きになったんです。本当に不思議です。ヨーロッパでも焼き魚は食べたりするんですが今でもヨーロッパの焼き魚は好きではないんです(笑)。でも、日本の焼き魚は食べられる!なんでなんでしょう。わからないけど大好きです(笑)。

 

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日本料理と日本酒

シルバン: 日本酒は売れてきています。ほんの10年15年前は寿司屋でしか飲めなかったんですよ。パリで、というか世界中で「寿司ブーム」がおこり中国人のオーナーの和食店やラーメン・うどん、それに懐石のお店ができました。それからやっと日本酒が飲み始められました。

―日本食のブームの中で日本酒が飲まれるようになったんですね。

シルバン: いまではフランス料理の店でも日本酒を飲めるようになりましたよ。日本に旅行したシェフから、じわじわ浸透した面もあります。

―そうなんですね。フランス料理に日本酒を合わせるのは意外です。先ほどの和食のお店のお話の中で中国人オーナーと言われましたが、多いんでしょうか?

シルバン: 昔からですが、パリでは中国人の日本料理屋さんが本当に多いです。日本酒が広がるためには、ちゃんとした日本料理屋さんが多くなるのがいいと思います。

―そうですね(笑)。外国で特にお寿司なんかはなんだコレ?的なものも多いですしね(笑)。こんなものを寿司だと思われたらちょっと嫌ですね。そういうのに出会うとお店にいる方が気の毒になります。ほかには何か日本料理店の出店に障害になるものはありますか?

シルバン:そうですね、パリでは問題は「出汁(だし)」だと思います。水の違いが問題になっています。先ほども申し上げましたが、私は京都に住んでいました。京都から持ってきたお茶をパリの水で入れると全然違うんです。これはだしでも同じです。

―硬水と軟水の問題はよくあげられますね。

シルバン: お茶に関してはパリでも人気が出ると思うのですが、なかなかうまく導入できないようです。お茶に関しては日本での飲む量は減ってきていると聞いているので、外国へ輸出できると思うのですが…。

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愛好家を育てることが大切

―シルバンさんはどれくらいのペースで日本へは来られているんですか?

シルバン: 私は年に2回くらいは日本に行きます。大体、1か月から1か月半くらいは滞在します。今年は三週間しか行けないのです。残念です。

―そうなんですか。ちょっと物足らないのかもしれませんね。これだけ日本が話せるとどこに行っても困らないでしょうし。

シルバン: 今年の2月には高知県に行きました。蔵元は9社(18社あるうち)見学させていただきました。

―高知の日本酒はあまりイメージがないのですが、土佐の人の酒飲みのイメージはあります(笑)。

シルバン: お昼は見学をするのですが、夜は蔵元さんと遊びます。おいしい食事とお酒のお店に連れて行っていただけるので、すごく料理の勉強になります。

―日本には日本酒以外にもお酒はあるそちらにはいかないのですか?興味がないですか?

シルバン: そうですね。焼酎は飲みますけどあまりわからないです。おいしいとは思いますが。『サロン・デュ。サケ』では300の日本酒と100のウイスキーや焼酎、梅酒も紹介しています。これだけの規模でできるのは、(日本のお酒メーカーが)ヨーロッパのマーケットに興味が出てきたからだと思います。ただ、しきたりが大変です。暦とかがあったりして今年は遠方に行けないとか。

―そうなんですよね。私も店舗の設計で大手の酒造メーカーさんのお仕事をしましたが、オープンや着工まですべて暦から決めていかれました。大変ですよね。

―シルバンさんは個人的に一番好きなお酒はなんでしょう?

シルバン: わたしは本当に好きなお酒がいっぱいあって一つには決められないです(笑)。でも、基本的には『端麗辛口』です。日によってだったり、友達の好みとかで使い分けています。私の友人では、辛口が好きな人が多いですね。

―端麗辛口ですか。そういう意味では日本のトレンドとは似ているんですね。全然違ったものが好まれているというわけではなさそうですね。

シルバン: 今のパリでは『獺祭』が今一番有名です。他のブランドはまったく知らない人が多いですね。純米の中では15~20%くらい流通しているんではないでしょうか?以前利き酒で獺祭といろいろなものをブラインドテストしたこともありますが、違いが分かった人はいなかったです(笑)。そういう意味では日本で人気の銘柄を紹介されてそれしか知らない人が多いのです。

―日本でも獺祭はブームでしたから(笑)。猫も杓子もってやつで。

シルバン: それを私がエデュケーションしなければならないと思っています。今年の『サロン・デュ・サケ』は3日間行います。去年は2日間でした。今回は私はワークショップをやる予定になっています。お酒と温度の説明をするつもりです。食べ物とのマリアージュでは、そのスキルは大事だし大切なことだと思っています。

―先ほどおっしゃられたことですね。熱燗でいろいろ飲んだらかなり酔っぱらいそうですね(笑)。『サロン・デュ・サケ』以外の活動はどうなっていますか?

シルバン: いまWEBでは、8つのショートムービーを公開しています。前回訪問した広島のものです。メインはエデュケーションです。私の仕事は(1)日本酒啓蒙家、(2)イベントを行うこと(3)日本とフランスのマーケットをつなぐこと の3つです。

―ダンサーをやめられた後、しばらくマーケティング&コミュニケーション戦略コンサルタントをされていたんですよね。日本酒の普及にとっては頼もしい味方です。文化としての日本酒についてまだやらなければいけないことはたくさんありそうですね。

シルバン: そうですね。たとえばデザインについてでしょうか。フランスではワインはワイングラスで飲みます。お酒はグラスでも飲みますが、御猪口やぐい飲みのような酒器があります。グラスについても切子などがあります。ヨーロッパでは食器や器は、お酒を飲む・食事をするスタイルとして重要に考えられているんですね。そうしたことをもっとやらなければならないですね。

―なるほど。お酒と合わせて酒席のデザインということですね(笑)。

シルバン: 私は今日この後、レストランで日本酒のセミナーやらなければいけません(笑)。さて、今日のテーブルウェアどうするか考えなくてはいけませんね(笑)

―本日はお忙しい中ありがとうございました。

 

 

 

日本酒ジャーナリスト、ジョン・ゴントナー氏は「DANCYU2月号」でシルヴァンについてこう語っています。

シルヴァンの肩書きは「日本酒啓蒙家」。頭脳明晰のデキル奴で、酒にかかわるいろんな仕事で休む間もなく走り続けている。フランスでようやく機が熟した今、彼はヨーロッパの日本酒振興のためにかけがえのない存在だと思う。

パリのレストランの取材の中で、何人かの日本人オーナーさんとお話しする機会を得ましたが皆さんがシルヴァンさんのことを知ってらっしゃいました。パリの日本人のコミュニティはそんなに大きなものではありませんが、皆さんが知っておられてリスペクトしているのを感じました。

これから日本文化が真の意味で広がりを作っていけるとしたら、こういった人たちの地道な活動があってのものだと思います。大変日本語がお上手で敬語も自然に使われる会話に日本文化への深い理解を感じました。フランスにパリに行くことがあればシルヴァン氏の「アカデミー・デュ・サケ」が開かれていないか確認して参加してみてはいかがでしょうか?パリで日本酒を体験するのはきっとエキサイティングだと思いますよ。

 

 

 

Text: Koichiro Sato
Picture: Koichiro Sato

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SALON DU SAKE

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URL:salon-du-sake.fr

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La Passion du Saké

シルヴァン・ユエ氏によるお酒への情熱あふれるブログ

URL:www.sakejaponais.fr

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