自然素材による伝統と現代の融合というサードプレイス思想の極北
建築家 隈研吾氏により「自然素材による伝統と現代の融合」というコンセプトをもとに設計。、「サードプレイス(家庭、職場・学校等に次ぐ第3の生活拠点)」もここに極まれり。
2020年に開催がせまる東京オリンピック。
そのメイン会場となる新国立競技場の設計が、故ザハ・ハディドから隈研吾氏に変更になった一連の出来事は、驚きとともに個人的にはとても嬉しく思う出来事でした。複雑な状況下の中で発表されたコンセプトデザインを初めて目にした時、神宮という地にあまりにも溶け込み、さらに僕たち日本人の感覚にしっくりと受け入れられると感じたのです。
極限的に風当たりが厳しかった状況で、新国立競技場を着地させたデザインはさすがとしか言いようがありませんでした。そして僕が利用する場所に隈研吾氏の建築が計ったように存在していて、そのどれもが強いインパクトと深い印象を残していることは、氏の建築が単なるデザインではなくて、僕たちの精神にまで影響を及ぼしていることを示しています。
意外なところでは僕の地元群馬県高崎にある駐車場だったり、最近だとノマドワーキングで利用している豊島区役所や二子玉の高島屋SCだったりと、どれも確実に心の中にスッと入ってくるデザインなんですよね。
先日、取材で博多を訪れたのですが一緒に行った先輩が、年明けに仕事の試験を受けるという話がでていて、それなら合格祈願をしようということで、およそ10年ぶりに太宰府天満宮を参拝しました。
あいにくの雨だったものの平日にもかかわらず参道にはたくさんの人が歩いていて、10年前の風景とはまったく別の太宰府がそこにありました。とにかく外国人だらけで浅草寺の仲見世通りを彷彿とさせるワールドワイドな雰囲気だったのです。
時代の変化をしみじみと感じながら参拝を済ませ、お土産もの屋で太宰府名物の梅ヶ枝餅を食べるという王道パターンをこなしてから、今回紹介するスターバックスへやって参りました。話の流れでお分かりのようにこのカフェも隈研吾氏の作品です。
隈研吾ワールドが炸裂したスターバックスコーヒー太宰府天満宮参道店がOPEN以来、いたるところで話題にされ尽くされていることありますので、少しばかり視点を変えてこのお店の面白さを語っていきます。
創建以来およそ1100年の歴史を持つ太宰府天満宮の参道に似つかわしくない、世界23000店舗を誇るグローバル企業の看板が「縦」向きに設置されています。この意味と配慮が、隈研吾氏建築の真骨頂で、縦という文化にアルファベットを融合させることで、神社という日本人の魂の中にカフェが入り込めた要因であると考えます。
店舗の位置が弐の鳥居をくぐった参道沿いにあることからも、その特異性がわかります。いくらメジャーな企業で誰もが知っているカフェだとは言え、昔からある伝統的な商店で固められている表参道に、これだけ異質でリスキーなデザインの建築許可(役場の手続きも含めて関係各位の情緒的許可)が通ってしまったわけですから。
およそ2000本の杉材を一本の釘も打たずに構成された格子の連続性から、隈研吾氏の精神が粒子となって滲み出ています。正確に観察したわけではありませんが、ここに訪れた観光客のほぼ全員が写真を撮影して、各々がSNSへシェアして旅で偶然出会ったのであろう特異なスターバックスに居ることを自慢しています。もちろん僕のその中のひとりですから(笑)
珈琲を飲んでひと休みするというカフェの機能は、僕たちが普段よく知っているふつうのスターバックスなのですが、建築家の思想と強烈な意匠のエネルギーによって付加価値という表現では全然足りないほどの存在感を示しています。
そして注目すべきは、これだけ個性ある箱が自然なカタチで旅人が足を休めるための喫茶店として機能していることです。参道にある商店はスターバックス以外、昔ながらの典型的なお土産屋と売店です。その中に世界的建築家の作品があるわけですから、下手をすると銀座にあるようなスーパーブランド建築的造形物としての扱いになってしまいがちです。
このスターバックスの空間に包まれていると、もともとはポストモダン路線であった隈研吾氏の建築が、近年「和」にこだわりつづけている意味と成果を珈琲と一緒に味わうことができるでしょう。
21世紀になっても潜在的には自然崇拝が息づく日本人の精神文化。それは自然界と宇宙のリズムに調和した暮らしであり、黒船の来航と共に失われたかと思われる日本古来の暮らし方、ひいては混沌とした現代にアニミズムを復興させようという隈研吾氏の建築家としての野心の象徴がこのスターバックスなのだと思います。
ところが、お客さんたちがこぞってスマホカメラで撮影をしている光景以外は、ふつうのスターバックスとなんら変わりのないリラックスした空気感が流れ、若者からお年寄り、様々な人種の人たちが思い思いにおしゃべりをしながら、旅の合間のつかの間の休息を楽しんでいます。
滞在した30分間、外国人旅行者たちが、この空間に腰を下ろして楽しそうにくつろいでいる様子を観察していると・・2020年の夏、メインスタジアム新国立競技場でも、このスターバックスと同じ光景が見られるのではないかという確信が僕の中に生まれました。
東京オリンピックの開会式、是が非でもチケットを手に入れたいと心に誓いながらソイラテを飲み干したのでした。
Text: Kazuaki TaniPicture: Kazuaki Tani
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