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初代屋号「船場盛進堂」を掲げブランド構築に取り組む

2017年5月19日に染色・プリント加工を手掛ける工場、松尾捺染が大阪市中央区の「船場」地区に初となる自社直営ショップ「船場盛進堂」をオープンさせた。染色・プリント加工場の新しい挑戦を見て行こうと思います。

July 27 2017 , Shop Report

バブル崩壊後の90年代に国内の繊維製品の製造加工場は、急激に中国をメインとするアジア地区へと海外移転した。理由は様々考えられるが、アパレル製品の好況が一転し、各社・各ブランドは利益確保のために人件費・工賃の安い海外工場への移転を選んだ。一般的にはアパレルやブランドの施策が悪の元凶のように思われているが、実は製造加工場自身がいち早くアジア地区へ進出した例もあり、一概にブランド側だけの責任とも言い切れないのが実情である。

しかし、実際に国内の繊維製品の製造加工場は減少の一途を辿っており、倒産・廃業が相次いでいる。生き残った製造加工場は、これまでの下請け気質を徐々にではあるが捨て始めており、自社のオリジナル商品の開発やSPA(製造小売り)ブランドの構築などに取り組む事例が増えた。

そんな中、5月19日に染色・プリント加工を手掛ける工場、松尾捺染が大阪市中央区の「船場」地区に初となる自社直営ショップ「船場盛進堂」をオープンさせた。染色・プリント加工場の挑戦を見てみたい。

002船場盛進堂

 

松尾捺染の松尾治社長は3代目。現在本社は大阪市中央区博労町だが、プリント工場は東大阪に構える。初代の創業者は最初、木版プリントの会社「松尾盛進堂」をこの場所に立ち上げた。木版や木製の判子などでのプリントを行っており、生地のプリント加工は手掛けていなかった。松尾治社長の父親にあたる2代目社長がその木版プリントの延長線上で生地へのプリント工場へと業態を転換し、現在の社名である「松尾捺染」となった。

現在の社員数は約50人だから、国内の繊維の製造加工業者としてはかなり大きな規模だといえる。

今回、立ち上げた直営ショップ「船場盛進堂」という店名は初代社長の屋号にちなんでいる。

1階はレンタルギャラリー、2階は自社生産したプリント生地の切り売りコーナー、3階はワークショップなどを行うサロン、という構成で、それぞれの約26坪ずつの広さとなっている。地下1階は戦中の防空壕だが、これもレンタルギャラリーにする考えだ。

松尾治社長にショップとしての初年度売上高目標を尋ねてみると「ノウハウもない中でのオープンですから、実験という色合いが強く、あえて設定していません」とのことで、ある意味で「堅実」な考え方だといえる。しかし、早期に黒字化させたいという考えも持っており、将来的には「東京にも1店舗出店したい」との野心もある。

中央区博労町1-2-5は松尾社長に言わせると、「船場の東端」なのだそうだ。かつて商都だった大阪でその中心をなしたのが、船場と呼ばれる地域で、この記事が掲載されているウェブメディアを運営している会社のルーツもそのあたりにある。

大阪に土地勘がある人は、船場というと本町・淀屋橋・北浜あたりを想像する。辞書などによると、船場とは大阪市中央区の北西部で、南端は長堀通、東端は東横堀・西端は西横堀、北端は土佐堀川の地域を指すのだという。江戸時代から昭和に至るまで商人の街として知られた伝統ある地域だが、関西以外の地域での知名度はそれほど高くない。松尾社長は船場に生まれ育った一人として、「製造加工業の当社が小売店に挑戦するのは、自社の未来のためだけではなく、船場地域を再活性化したいという思いもあります」と語る。

005船場盛進堂

003船場盛進堂

松尾捺染に限らず、国内の繊維の製造加工業者は変化への対応を余儀なくされている。工賃の安さではアジア地区の工場に勝てないばかりか、最近では、商品の出来具合まで勝てないケースが増えている。理由は様々あるが、工員の後継者不足による高齢化や、製造加工設備の劣化などが挙げられる。工員の高齢化は顕著で最年少が60代という工場も珍しくなく、視力の低下や指先の動きの悪化などで商品の完成度が低くなっている。また、アジアの各工場は最新鋭の機械設備を備えているのに対して、国内の工場の多くは、成長が見込めないことから90年代くらいから設備投資が行われていない。最新鋭の機械が一概に良いとは言えないが、それでも徐々にその格差は出始めていると見るべきだろう。

004船場盛進堂

このような状況からこれまでのような下請け一辺倒では製造加工場は生き残れなくなりつつある。下請けという立場から脱して「自立化」することが不可欠になってきた。

ただ、一口に「自立化」といっても様々な方法がある。業界トレンドは、自社のオリジナル製品・オリジナルブランドを開発するという方法だが、成功する確率は高くない。オリジナル製品の多くはファッション関連商品だから、今度は他のファッションブランドとの競争にさらされることになる。いくら、ファッションブランドが全般的に不振だからといっても、そこはファッションブランドの方が、工場よりはまだ一枚上手だ。商品のデザインや売り場での見せ方、広報・宣伝の巧みさ、どれをとっても工場がすぐに獲得できるノウハウではない。ノウハウを獲得するにはそれ相応の時間と出費が必要になるが、そこを耐えて凌げる工場ブランドは数少ない。

松尾捺染のように、オリジナルブランド開発よりも小売店を運営するという手法もある。こちらもノウハウを蓄積している小売業者との競合が待っているから、容易な道ではない。

しかし、意欲もアイデアもなく、座して死を待つばかりという製造加工業者が多い中で、松尾捺染の挑戦する姿勢は評価されるのではないかと思う。松尾捺染の小売店「船場盛進堂」が軌道に乗ることを願わずにはいられない。もし、軌道に乗れば、それは国内の製造加工業者に励みを与えることにもなる。

しばらくの間、この挑戦の行方を見守りたいと思う。

Text: Mitsuhiro Minami
Picture: Mitsuhiro Minami

Shop Data

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船場盛進堂

住所:
大阪市中央区博労町1-2-5
TEL:06-6261-5180 公式サイト:www.artdegenki.jp

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